理論を説明するのが専門家ではない。

理論を説明するのが専門家ではない。
理論を使わずに済むところまで翻訳するのが専門家だ。

企業の人材育成や組織開発の世界には、さまざまな理論があります。 心理学、組織論、リーダーシップ論、モチベーション理論、学習理論。 どれも、複雑な現象を理解するための重要な道具です。

しかし、企業の現場にいる人たちが本当に求めているのは、 理論そのものではありません。

「では、自分たちは何を変えればよいのか」

現場にとって重要なのは、理論を知ることよりも、 その知識によって自分たちの仕事の見え方や判断、行動がどう変わるのかということです。

理論を知ることと、現場が変わることは別の話

たとえば、あるマネジャーが部下との関係に悩んでいるとします。

そこで、 「心理的安全性が重要です」 「自己決定理論では、自律性・有能感・関係性が重要です」 「成人学習理論によれば……」 と説明する。

どれも間違ってはいません。

しかし、そのマネジャーが研修を終えたあと、 「なるほど。で、明日の1on1で自分は何をすればいいのだろう」 となってしまったとしたら、学んだ理論はまだ現場には届いていません。

理論を理解することと、現実が変わることの間には距離があります。

企業研修や組織開発に関わる専門家の仕事とは、 その距離を埋めることなのではないでしょうか。

理論は必要。ただし、そのまま渡さない

私たちは、理論が不要だとは考えていません。

むしろ、専門家ほど理論を深く理解している必要があります。

理論は、目の前で起きている現象を読み解くためのレンズです。

なぜ、このチームでは同じ問題が繰り返されるのか。

なぜ、本人にやる気があるのに行動が続かないのか。

なぜ、会議を重ねても組織が変わらないのか。

こうした現象を理解するうえで、理論は重要な示唆を与えてくれます。

ただし、学んだ理論をそのまま現場に持ち込めばよいわけではありません。

専門家の役割は、理論を説明することではなく、
現場で使える形に「翻訳する」ことです。

専門家の仕事は「複雑さを増やすこと」ではない

難しいことを、難しい言葉で説明するのは、それほど難しい仕事ではありません。

専門用語を使い、理論名を並べれば、専門家らしく見えるかもしれません。

しかし、本当に難しいのは、 複雑なものを複雑なまま理解したうえで、 その本質を損なわずにシンプルな判断や行動へと変換することです。

たとえば、

何を見るべきなのか。

何を問い直すべきなのか。

何をやめるべきなのか。

何を始めるべきなのか。

どのような判断基準を持つべきなのか。

そこまで落とし込まれて初めて、専門知識は現場にとっての価値になります。

理論を説明するのが専門家ではない。
理論を使わずに済むところまで翻訳するのが専門家だ。

理論 → 認識 → 判断 → 行動

私たちが企業向けの研修やワークショップで重視しているのは、 理論を知識として伝えることだけではありません。

理論
複雑な現象を理解するための視点を得る。

認識
それまでとは違う見方で、現実を捉え直す。

判断
見方が変わることで、選択や意思決定が変わる。

行動
判断の変化が、実際の仕事の進め方を変えていく。

理論の重要な役割の一つは、現実の「見え方」を変えることです。

それまで当たり前だと思っていた前提に気づく。

自分とは異なる見方があると知る。

問題だと思っていたものが、別の角度から見ると違う意味を持っていることに気づく。

認識が変われば、判断が変わります。 判断が変われば、行動が変わります。

そして行動が変わって初めて、現実に変化が生まれます。

良い研修とは、専門用語を覚える研修ではない

研修の価値は、受講者がいくつ専門用語を覚えたかでは測れません。

翌日の会議で、問いかけ方が少し変わった。

部下との対話の仕方が変わった。

意思決定の基準が変わった。

これまで見えていなかったものが見えるようになった。

そうした変化が起きてこそ、学びが現場につながったと言えます。

企業研修や組織開発の目的は、
知識を増やすことではなく、仕事の現実をよりよくすることです。

理論は舞台裏にあればいい

専門家の頭の中には、理論や研究、そして現場経験の蓄積が必要です。

しかし、それらすべてを顧客に説明する必要はありません。

理論は舞台裏にあればいい。

表舞台に出すべきなのは、

使える問い。

新しい見方。

判断の基準。

そして、次の一手。

私たちは、研修やワークショップを「学んで終わる場」にはしたくありません。

その場で生まれた気づきが、現場での判断や行動につながるところまでを設計する。

そのために必要な理論は裏側で使いながら、 現場には「使える形」にして届ける。

それが、企業の人材育成や組織開発に関わる専門家の役割だと考えています。

自社で考えたい問い

研修や組織開発を考えるとき、次のような問いを持ってみてもよいかもしれません。

研修で学んだ内容は、翌日の仕事でどのように使えるでしょうか。

理論やフレームワークを説明すること自体が、目的になっていないでしょうか。

参加者の「見方」や「判断」は、研修前と比べて何か変わったでしょうか。

研修で得た気づきから、具体的な「次の一手」まで導き出せているでしょうか。

専門家の知識が、現場の人にとって本当に使える形へ翻訳されているでしょうか。

理論を教えることが目的ではありません。

現実を変えることが目的です。

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