組織内合理性モデルとは何か

組織内合理性モデルとは何か
人を変えるのではなく、違う行動が合理的になる組織をつくる

「社員が動かない」「管理職が自分で決めない」「部門を越えて協力しない」「何度説明しても変わらない」。 組織の中でこうした現象が起きたとき、私たちはつい、その原因を「人」に求めます。

主体性がない。

意識が低い。

能力が足りない。

変化を嫌っている。

当事者意識がない。

もちろん、個人の能力や意識がまったく関係ないわけではありません。

しかし、それだけで説明しようとすると、見落としてしまうものがあります。

「なぜ、その人にとって、その行動を取ることが合理的になっているのか」

私は、この視点を「組織内合理性」と呼んでいます。

組織内合理性とは何か

組織内合理性とは、ある組織の具体的な文脈において、人や集団がある行動を選び、続けることを、 妥当、安全、適切、有益、あるいは意味のあるものとして成立させている、 その場固有の判断と意味づけの論理です。

ここで重要なのは、

合理的 = 正しい、ではない。

本人が意識的に損得計算をしているとも限りません。 また、その行動が会社にとって最適であるとも限りません。

それでも、その人が置かれている状況から見れば、

「そうする方が安全だ」

「その方が損をしない」

「それがこの会社での普通だ」

「この役割なら、そう振る舞うべきだ」

と学習されていることがあります。

これが、組織内合理性です。

たとえば、会議で誰も発言しない組織

会議で意見が出ないとします。

そこで、「もっと主体的に発言してください」と伝える。 それでも発言が増えない。

すると、

「この会社の社員は主体性がない」

という結論になりがちです。

しかし、少し違う角度から見てみます。

その組織では過去に、

発言すると反論された。

上司と違う意見を言うと面倒なことになった。

意見を言った人だけが仕事を任された。

何を言っても、結局は上司が決めた。

という経験が繰り返されていたとしたら、社員は何を学習するでしょうか。

「黙っている方が安全だ」

このとき、発言しないという行動は、本人の性格だけから生まれているわけではありません。

組織の中で積み重なった経験から、 「発言しない方が合理的だ」 という現実がつくられている可能性があります。

そうだとすれば、必要なのは「もっと発言しろ」という説得だけではありません。

発言する方が合理的になる条件をつくること。

人を変える前に、組織を見る

組織内合理性モデルの中心にある考え方は、シンプルです。

人は組織の中で、自分にとって合理的だと学習した行動を取る。

したがって組織変革とは、人を変えようとすることではなく、 違う行動の方が合理的になる条件・経験・意味づけを設計すること である。

たとえば、「挑戦しろ」と言うだけではなく、

挑戦して失敗しても、致命的な損失を受けない。

小さく試せる。

挑戦したこと自体が評価される。

失敗から学ぶ対話が行われる。

成功体験が共有される。

こうした経験が繰り返されれば、 「この会社では、試してみる方が合理的だ」 という新しい現実がつくられていきます。

人の意識を直接変えようとするのではなく、 意識や行動が生まれている組織の現実そのものを見る。

これが、このモデルの基本的な立場です。

組織内合理性モデルの3つの問い

実践では、まず3つの問いから組織を見ます。

Q1|この行動は、誰にとって、なぜ合理的なのか?
現在の合理性を読み解く。

Q2|何を変えれば、別の行動の方が合理的になるのか?
合理性を転換する。

Q3|どうすれば、その新しい合理性が「当たり前」として再生産されるのか?
新しい組織現実を定着させる。

この3つの問いは、

理解する → 転換する → 定着させる

という組織変革の流れにつながっています。

組織変革を3つの層で考える

組織内合理性モデルでは、変革を3つの層で捉えます。

Layer I|現在の合理性を読み解く

Layer II|合理性を転換する

Layer III|新しい組織現実を再生成する

組織変革を、一度の研修や介入として考えるのではありません。

現在の行動を生み出している合理性を理解し、別の経験をつくり、それを反復し、 新しい「当たり前」として定着させていくプロセスとして考えます。

その実践プロセスをさらに具体化したものが、次の7ステップです。

MAP|何が起きており、誰にとってなぜ合理的なのか?

LOCATE|どこを変えれば合理性が動くのか?

PROTECT|違う行動を試しても損をしない条件をどう作るか?

EXPERIENCE|旧合理性と異なる経験をどう起こすか?

MAKE SENSE|その経験をどう意味づけ直すか?

REPEAT|新しい経験をどう反復するか?

EMBED|新しい行動をどう仕組み・ルール・制度へ埋め込むか?

それぞれについては、今後の記事で詳しく紹介していきます。

「新しい学術理論」を主張するモデルではない

もう一つ、このモデルの位置づけについて明確にしておきたいことがあります。

組織内合理性モデルは、 「人の行動には、その人なりの合理性がある」ということを新たに発見した学術理論ではありません。

合理性については、すでに多くの研究があります。

Herbert A. Simon|Bounded Rationality

Sidney Dekker|Local Rationality

James G. March / Johan P. Olsen|Logic of Appropriateness

Barbara Townley|Contextual / Situational Rationality

Gerd Gigerenzer|Ecological Rationality

Henk J. ter Bogt / Robert W. Scapens|Situated Rationality

組織内合理性モデルの目的は、これらの研究を置き換えることではありません。

むしろ、既存の合理性研究、組織研究、学習研究から得られている知見を、

「では、実際に組織をどう変えていけばよいのか」

という実践へ翻訳することです。

そのため、このモデルを Research-informed Practice Model(研究知見に基づく実践モデル) として位置づけています。

外部の専門家が答えを出すのではない

このモデルには、もう一つ重要な思想があります。

組織変革を、外部専門家に丸投げしない。

外部の専門家が会社を診断し、「御社の問題はこれです」と答えを提示する。 その方法が有効な場面もあります。

しかし、複雑な組織の現実を、外部者が一度の診断ですべて理解できるとは限りません。

そこで組織内合理性モデルでは、次の循環を重視します。

Observe|観察する

Hypothesize|合理性について仮説を立てる

Experiment|小さく実験する

Learn|結果から学ぶ

そして必要なら、最初の仮説そのものを修正します。

これを行う主体は、基本的には組織内部の人たちです。

外部支援者は「答えを出す診断者」というより、 モデルを教え、プロセスを設計し、問いや対話、振り返りの質を支える役割を担います。

一つの問題を解決するだけでなく、
次の問題を自分たちで変えられる組織になる。

そこまでを、組織変革の成果として考えます。

人を変えようとする前に

組織の中で問題が起きると、私たちはつい、 「誰が悪いのか」「誰を変えればいいのか」と考えます。

しかし、そこで一つ、別の問いを加えてみる。

「なぜ、その行動がこの組織では合理的になっているのだろう?」

すると、それまで見えていなかった制度、評価、権限、人間関係、役割、経験、暗黙のルールが見えてくることがあります。

組織内合理性モデルの出発点は、ここです。

人を変えようとする前に、
なぜその行動が合理的なのかを見る。

組織を変えるとは、
違う行動の方が合理的になる現実をつくることである。

これからこのブログでは、「組織内合理性」という視点から、 会議、管理職、部門間連携、挑戦、変革への抵抗など、 実際の組織で起きている現象を一つずつ考えていきます。

お問い合わせ

ご依頼・ご相談は、メールフォームからご連絡ください。

ライフ・ブレークスルー・ジャパン株式会社

メールフォームはこちら