2026/05/17
『“無意味な仕事”は、なぜ生まれ、増殖してしまうのか?』の要約と考察
人と組織のリポート読解
今回は、リクルートワークス研究所のWorks Report 2026『“無意味な仕事”は、なぜ生まれ、増殖してしまうのか?』を取り上げます。
タイトルからして、なかなか刺激的です。
「無意味な仕事」と聞くと、単に「ムダな仕事をなくそう」という業務改善の話のように聞こえるかもしれません。
しかし、このリポートが扱っているテーマは、もう少し深いものです。
仕事に手応えがない。
何のためにやっているのかわからない。
前向きな気持ちで取り組めない。
けれど、やめることもできず、むしろ忙しさだけが増えていく。
そうした現代の組織に広がる不全感を、「無意味な仕事」という切り口から読み解こうとしているのが本リポートです。リクルートワークス研究所は、この問題を「組織に広がる現代病」と捉え、“無意味な仕事”の実態と増殖メカニズムを解明するプロジェクトとして本調査を行っています。
働く人の3分の1以上が、自分の仕事の半分以上を「無意味」と感じている
本リポートでまず目を引くのは、調査結果です。
リクルートワークス研究所の「無意味な仕事の実態調査」では、自分が取り組む業務のうち、「取り組む意味が感じられない」「疑問を感じる」「前向きな気持ちで取り組めない」と感じる仕事の割合が50%以上あると回答した人が、全体の35.6%に達したと報告されています。
つまり、働く人の3分の1以上が、日々の仕事の半分以上に対して、何らかの無力感や違和感を抱いているということです。
もちろん、仕事には面倒なこともあります。
すべての業務が楽しく、意義深く、前向きに取り組めるものとは限りません。
しかし、問題は「面倒な仕事があること」ではありません。
自分でも意味を感じられない仕事に、多くの時間とエネルギーを使い続けている。
しかも、それを「意味がある仕事」のように取り繕わなければならない。
ここに、働く人の精神的な疲弊があります。
欧米型の「ブルシット・ジョブ」と日本型の違い
本リポートの出発点には、人類学者デヴィッド・グレーバーの著書『ブルシット・ジョブ』があります。
グレーバーは、ブルシット・ジョブを「被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態」と定義しています。リポートでも、この定義を紹介したうえで、日本における実態との違いに注目しています。
欧米のブルシット・ジョブでは、「やる仕事がないのに、仕事をしているふりをしなければならない」という話が多く出てきます。
一方、日本の場合は少し違います。
本リポートでは、日本では「やるべき意味は不明だが、とにかく多忙で疲弊している」ケースが多いと指摘されています。
これは、多くの日本企業にとって非常に身近な問題ではないでしょうか。
暇だから苦しいのではない。
むしろ忙しい。
しかし、その忙しさの意味が見えない。
ここに、日本型の「無意味な仕事」の特徴があります。
日本版「4つの無意味な仕事」
リポートでは、日本における“無意味な仕事”を、次の4つに整理しています。
なくしたり省いたりしても問題はないのに、慣習や決まり事として続いている仕事。
必要性は否定できないものの、労力に見合う成果や手応えが得られない仕事。
目的や意図は理解できるものの、現在の体制やリソースでは達成の見込みが薄い仕事。
一見すると目的がありそうに見えるものの、実際には大した成果や価値を生まない仕事。
1. ムダな仕事
なくしたり省いたりしても問題はないのに、慣習や決まり事として続いている仕事です。
たとえば、誰も読まない資料、形式だけの報告、目的が曖昧な定例会議、過剰な確認作業、増え続けるチェックリストなどが挙げられます。
リポートでは、これを「ジャンク・ワーク」と呼んでいます。
誰もが「これはムダではないか」と感じているのに、「昔からそうしているから」「決まっているから」という理由で続いてしまう仕事です。
2. 報われない仕事
仕事としての必要性は否定できないものの、かけた労力に見合う成果や手応えが得られない仕事です。
たとえば、誰かの穴埋め、尻拭い、責任や負担に見合わない仕事、努力や成果が正当に評価されない業務などです。
リポートでは、これを「ホープレス・ワーク」と呼んでいます。
金銭的な報酬だけでなく、感謝、承認、成長実感、貢献実感といった無形の報酬が得られないことも、働く人の意欲を削っていきます。
3. うまく行きそうにない仕事
目的や意図は理解できるものの、現在の体制やリソースでは達成の見込みが薄い仕事です。
たとえば、達成不能な目標、精度の低い計画、場当たり的な方針変更、人員不足、過密なスケジュール、必要な知識や経験の不足などです。
リポートでは、これを「ラビリンス・ワーク」と呼んでいます。
「目的はわかる。でも、この体制では無理だ」と感じながら進める仕事です。
これは現場の疲弊を大きくします。
4. 作られた仕事
一見すると目的がありそうに見えるものの、実際には大した成果や価値を生まない仕事です。
たとえば、実効性の乏しい施策、成果につながらない改善活動、外部向けのアピールを目的とした取り組み、「やっている姿勢」を示すためだけの業務などです。
リポートでは、これを「フェイク・ワーク」と呼んでいます。
社会的なバズワードや流行に乗り、「何かやっているように見せる」ことが目的化してしまう仕事です。
DX、人的資本経営、心理的安全性、エンゲージメント、リスキリングなど、本来は重要なテーマであっても、目的が曖昧なまま導入されれば、現場にとってはフェイク・ワークになりかねません。
無意味な仕事は「雪だるま化」する
本リポートで特に重要なのは、無意味な仕事が単独で存在するのではなく、連鎖し、増殖していくという点です。
5000人規模の定量調査では、4つの無意味な仕事タイプについて、自分が関与している数を尋ねています。その結果、「全く無意味な仕事をしていない」と回答した層は26.4%。一方で、4つのタイプすべてを抱えている層は38.8%に達しています。
つまり、無意味な仕事は「少しだけある」というよりも、
まったくない状態か、
あらゆる無意味さに巻き込まれている状態か。
このように二極化しやすいということです。
リポートでは、この状態を「雪だるま化」と表現しています。
さらに深刻なのは、この雪だるま化が、いわゆる「できる人」に集中しやすいことです。
・困った時に頼られる人。
・尻拭いができる人。
・調整力がある人。
・トラブル対応ができる人。
そうした人に、組織の不具合や矛盾が押し寄せていく。
これは、組織に貢献している人ほど、無意味な仕事を抱え込んでしまうという皮肉な構造です。リポートでも、優秀な人ほど“罰”を受けているような歪んだ構造であることが示唆されています。
企業にとって、これは見過ごせない問題です。
なぜなら、そうした人たちは表面上は真面目に働き続けるからです。
しかし内面では、ストレスや違和感を蓄積している。
そしてある日、静かに職場を離れていく。
本リポートでは、無意味な仕事を抱えていても、エンゲージメントやウェルビーイングの指標が極端に下がらない一方で、転職意欲が高まっていることも指摘されています。
つまり、無意味な仕事は、組織の中で静かに人材流出の火種になっているのです。
無意味な仕事は、なぜ生まれるのか
では、なぜ無意味な仕事は生まれるのでしょうか。
リポートは、その背景を5つの深層から分析しています。
社会視点では、不確実性の高まりや、株主・顧客・従業員・社会からの厳しい視線が、仕事の増加・高度化・複雑化を招いていると整理されています。
経営視点では、アカウンタビリティ、エージェンシー理論、マネジリアリズムなどの影響により、組織の中に「監視」「測定」「報告」の仕事が増えているとされています。
組織視点では、日本企業が持っていた「すり合わせ型」の強みが、オーバーマネジメントや借り物の経営概念と組み合わさることで、かえって機能不全を起こしていることが指摘されています。
職場視点では、かつて職場にあった「つながり」が弱まり、仕事の意味を共有・生成する基盤が崩壊していることが論じられています。
サピエンス視点では、人間が「虚構」を信じることで社会を発展させてきたという、より根源的な視点も提示されています。
会社、制度、市場、戦略、KPI。これらはすべて、人間がつくり出した概念です。概念は社会を動かす力を持つ一方で、新たな仕事を生み出し続ける力も持っています。
この分析を読むと、無意味な仕事は、単に誰かが怠けているから生まれるのではないことがわかります。
むしろ、組織が真面目に管理しようとするほど、説明しようとするほど、測定しようとするほど、仕事は増えていく。
その結果、現場では「何のためにやっているのかわからない仕事」が積み重なっていくのです。
大切なのは「意味が隠されていた仕事」と「本当に無意味な仕事」を見分けること
このリポートで私が特に重要だと感じたのは、「無意味に見える仕事」のすべてが、本当に無意味とは限らないという点です。
リポートでは、「意味が隠されていた仕事」という考え方が紹介されています。
最初は無意味だと感じていた仕事でも、他者との対話を通じて、「実はこうした役割があったのだ」と気づくケースがあるというのです。
これは非常に大事な視点です。
単純に「ムダをなくそう」と言って、すべてを切り捨てればよいわけではありません。
ある仕事は、本当にやめるべきかもしれない。
しかし別の仕事は、意味が共有されていないだけかもしれない。
つまり、必要なのは「削減」だけではありません。
その仕事は、何につながっているのか。
誰の役に立っているのか。
なぜ続けているのか。
いまも必要なのか。
やめるなら、何を守り、何を手放すのか。
こうした問いを、現場と経営が対話しながら確認していくことが必要です。
無意味な仕事と戦うために
リポートの後半では、“無意味な仕事”と戦うための視座が提示されています。
まず、会議室から変えること。
つまり、経営や管理の中枢で生まれる「構造的無意味」に目を向ける必要があります。
そして現場では、主体性を再起動するための5つのスローガンが示されています。
・「幻想」を振り払おう。
・「一人ひとり」を解き放とう。
・「やめる」から始めよう。
・「実験」を試みよう。
・「ソト」とつながろう。
この中でも、企業現場でまず取り組みやすいのは、「やめる」から始めることではないでしょうか。
新しい施策を足す前に、まず何をやめるかを考える。
新しい会議を増やす前に、意味を失った会議をやめる。
新しい報告フォーマットを作る前に、誰も読んでいない資料をやめる。
新しいプロジェクトを始める前に、形骸化した活動を終わらせる。
これは単なる効率化ではありません。
組織が自分たちの仕事の意味を取り戻すための、大事な一歩だと思います。
考察:無意味な仕事は、組織の主体性を映す鏡である
本リポートを読んで、私が最も強く感じたのは、無意味な仕事とは、組織の主体性が失われているサインだということです。
・誰かに説明するため。
・上から言われたから。
・外から求められているから。
・前例があるから。
・やっていないと不安だから。
・やっているように見せたいから。
こうした理由で仕事が増えていくと、現場は忙しくなります。
しかし、その忙しさは、必ずしも価値創造にはつながりません。
むしろ、組織の中に「自分たちは何のためにこの仕事をしているのか」という問いがなくなっていきます。
そして、その問いがなくなったとき、仕事は無意味化していくのだと思います。
企業にとって本当に怖いのは、社員が不満を言うことではありません。
むしろ、何も言わず、淡々と仕事をこなしながら、内心では意味を失っていることです。
「これは意味があるのだろうか」
「この会社で働き続ける意味はあるのだろうか」
「自分は何のためにここにいるのだろうか」
そうした問いが言葉にされないまま、静かに蓄積していく。
その先にあるのが、意欲の低下であり、静かな退職であり、突然の離職なのかもしれません。
自社で考えたい問い
今回のリポートは、企業にとって非常に実践的な問いを投げかけています。
自社には、誰も意味を説明できないのに続いている仕事はないでしょうか。
優秀な人ほど、尻拭いや調整役を引き受けて疲弊していないでしょうか。
「やっている感」のために、現場の時間を奪っている施策はないでしょうか。
新しい取り組みを始める前に、やめるべき仕事を見直しているでしょうか。
社員一人ひとりが、自分の仕事の意味を語れる状態にあるでしょうか。
無意味な仕事をなくすことは、単なる業務削減ではありません。
自分たちの会社は、何を大切にしているのか。
何のために働いているのか。
どの仕事に、本当に時間と力を注ぐべきなのか。
それを問い直すことです。
おわりに
Works Report 2026『“無意味な仕事”は、なぜ生まれ、増殖してしまうのか?』は、現代の組織に広がる疲弊感を、「無意味な仕事」という切り口から見事に言語化したリポートです。
このリポートが示しているのは、単なるムダ取りの必要性ではありません。
仕事の意味が見えなくなった組織では、人は静かに疲弊していく。
そして、仕事の意味を取り戻すには、業務を減らすだけでなく、対話を通じて意味を再確認する必要がある。
そのことを、データと構造分析の両面から示してくれているように感じます。
会社の中にある「無意味な仕事」は、放っておくと増殖します。
だからこそ、まずは問い直すことから始めたいものです。
この仕事は、何のためにあるのか。
誰の役に立っているのか。
いまも本当に必要なのか。
その問いを持つことが、組織が自分たちの主体性を取り戻す第一歩になるのだと思います。
引用・参考資料
リクルートワークス研究所
Works Report 2026『“無意味な仕事”は、なぜ生まれ、増殖してしまうのか?』
※本記事は、上記リポートの内容をもとに、ライフ・ブレークスルー・ジャパン株式会社として要約・考察したものです。