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「合理的=正しい」ではない——組織内合理性をどう捉えるか

「その人にとっては、合理的な行動なのかもしれない」

そう聞くと、少し引っかかる方もいるかもしれません。

情報を共有しない。問題の報告を後回しにする。自分の部署の都合を優先する。

会社にとって困る行動まで「合理的」と呼んでしまったら、それを認めることにならないか。本人に事情があれば、責任を問えなくなるのではないか。

この疑問は、組織内合理性という考え方を使ううえで、最初に整理しておきたい点です。

前回の「組織内合理性モデルとは何か」では、組織で繰り返される行動を、その人が置かれている条件や経験から捉える視点を紹介しました。

今回は、その前提となる「合理的」という言葉の意味を、もう少し詳しく考えてみます。

組織内合理性は、行動が成立している論理を指す

日常の会話で「合理的な判断」と言えば、筋が通っている、無駄がない、適切な選択である、といった肯定的な意味で使われることが多いと思います。

組織内合理性モデルでは、次のように定義しています。

ある組織の具体的な文脈において、行為者または集団が、ある行動を選択・継続することを、妥当・安全・適切・有益、あるいは意味あるものとして成立させている、その場固有の判断と意味づけの論理。

この定義が扱っているのは、ある人や集団が、その場で「こうするのが妥当だ」「こうする方が安全だ」と判断する背景です。

その行動が会社全体にとって望ましいか、倫理的に許されるか、長期的に役立つかは、それぞれ検討する必要があります。

また、本人が毎回、意識的に損得を計算しているとも限りません。過去の経験が積み重なるうちに、「この会社では、そうするものだ」という当たり前になっていることもあります。

たとえば、情報を共有しない部署

ある会社で、営業部が顧客情報を他部署へ十分に共有していないとします。

そのため、顧客から問い合わせが来ても、ほかの部署は事情を把握できない。担当者が不在のときは対応が止まる。会社として改善すべき状態です。

「もっと情報を共有してください」と伝えるのは、自然な対応でしょう。

ここで、仮に次のような経験が重なっていたら、どうでしょうか。

  • 顧客情報を共有すると、別の部署がその情報を使って成果を上げた。
  • 評価されたのは受注した部署だけで、情報を集め、関係を築いてきた営業部の貢献は扱われなかった。
  • 一方で、営業部には自部門の売上目標を達成するよう、繰り返し求められていた。

こうした条件のもとでは、「大切な情報は自分たちで持っていた方がよい」という判断が形成される可能性があります。

情報を抱えることが、自分たちの成果や立場を守るうえで意味を持つようになるのです。

しかし、その結果として顧客対応が滞るのであれば、会社としてその行動を続けてよいことにはなりません。

当事者にとって、その行動を選ぶ論理があることと、組織として、その行動を認めることは別です。

「なぜ起きるか」と「どう扱うか」を分けて考える

この区別は、次のように整理できます。

観点確かめること
行動の背景どのような条件や経験が、その行動を選びやすくしているか
組織への影響顧客、他部署、会社全体に何が起きているか
行動への対応何を求め、何を止め、どの責任を明確にする必要があるか
再発を防ぐ条件同じ行動が繰り返されないよう、何を変える必要があるか

背景が分かっても、顧客対応の遅れがなくなるわけではありません。必要な情報の共有を求めることも、役割や責任を明確にすることも必要です。

同時に、情報を共有した側が貢献を認められず、自部門の数字だけを問われる状態が続けば、「共有してほしい」という要求と、実際に評価される行動が食い違ったままになります。

その食い違いを残していると、担当者が替わっても、似た問題が繰り返される可能性があります。

行動に対する責任と、行動が形成された条件の理解は、同時に扱えます。

組織内合理性を見ることは、必要な判断に加えて、再発を生む条件にも目を向けることです。

背景についての説明も、仮説として扱う

ここで、もう一つ注意したいことがあります。

先ほどの例を読んで、「情報を共有しない人は、自分の成果を守りたいのだ」と一般化してしまうと、新しい決めつけになります。

実際には、共有すべき範囲が決まっていないのかもしれません。入力の負担が大きいのかもしれません。顧客情報の取り扱いについて、部署ごとに理解が違う可能性もあります。

「自分たちの成果を守っている」という説明は、確かめるべき仮説の一つです。

まず、どの情報が、誰に、いつ共有されなかったのかを確認する。そのとき、どのような判断をしたのかを本人に聞く。評価や業務の流れ、これまでの経験とも照らし合わせる。

そうした確認を通じて、最初の説明を修正していく必要があります。

相手の事情が分かったつもりになることにも、気をつけたいのです。

理解した先で、違う行動を選べる条件をつくる

確認の結果、情報を共有した側の貢献が扱われていないことが、共有をためらう理由の一つだと分かったとします。

その場合は、必要な共有の範囲を明確にするとともに、情報を提供した人や部署の貢献も、成果の振り返りで取り上げることが考えられます。

まず一つの案件で試し、情報の共有や顧客対応にどのような変化があったか、関係者と確かめる。変化がなければ、別の条件が影響していないかを見直す。

「背景を理解できた」で終わらず、望ましい行動を取りやすくする条件につなげていきます。

組織内合理性モデルは、既存の研究知見を組織変革の実践へ統合・翻訳する、Research-informed Practice Model(研究知見に基づく実践モデル)として位置づけています。行動の背景についての理解も、実際に試し、その結果から学び直すことを重視しています。

人を変えようとする前に、確かめたいこと

「合理的=正しい、ではない」という区別を持つと、問題のある行動を見たときに、二つのことを並行して考えられます。

一つは、その行動によって何が起きており、組織として何を求める必要があるか。

もう一つは、どのような条件や経験が、その行動を選び続けることにつながっているか。

必要な対応を進めながら、次の問いも持っておく。

この会社では、どのような条件が、その行動を選び続けることにつながっているのだろう。

その問いから、注意や説得だけでは届かなかった、変えるべき条件が見えてくるかもしれません。